遺伝性出血性毛細血管拡張症


Hereditary hemorrhagic telangiectasia (HHT)
Osler-Weber-Rendu disease



遺伝性出血性毛細血管拡張症 (HHTと略します)は、全身の血管に異常が起こり、出血傾向の出る常染色体優性の遺伝性疾患です.つまり、症状はまちまちですが、この病気の遺伝子は、必ず次の世代に伝わるということです.このHHTの原因遺伝子として、2つの遺伝子が分かっていました.一つは、endoglin といわれる遺伝子で,もう一つはactivin receptor-like kinase type I (ALK-1)という遺伝子です.ともに、血管形成時の血管内膜の形成に関与しています.endoglinの変異は、HHT1(1型)に、ALK-1の変異は、 HHT2(2型)に関係しています.最近、HHT3(3型)の遺伝子として、SMAD4という遺伝子が見つかりました.同じ遺伝子が家族性に伝わるわけですが、発症形態(表現型phenotype)は、同じ家族でも、患者さんごとに異なります.男女差はなく、10万人に1-2人の発生頻度とされています.

特徴は、繰り返す鼻出血、毛細血管の拡張、血管奇形が肺、脳・脊髄、消化管、肝臓などにある、家族に同様の症状がある、です.

きちんとした「診断基準」があります.
1.繰り返す「鼻血」.
2.皮膚や粘膜の「毛細血管拡張」.(口唇、口腔、指、鼻が特徴的).
3.肺、脳、肝臓、脊髄、消化管の「動静脈瘻(動静脈奇形)」
4.一親等以内にこの病気の患者さんがいる.
以上の4項目のうち、3つ以上あると確診definite、2つで疑診 probable or suspected、1つだけでは可能性は低いunlikelyとされます.

鼻粘膜からの出血で鼻出血が、消化管からの出血で下血が起こります.出血は、子供よりも大人に多く、特に消化管出血は、50歳以降に多いとされています.鼻出血は、HHTの90%患者さんに認められます.毛細血管の拡張は、思春期以降に気付かれる事が多いとされています.

皮膚病変は、顔面、口唇、耳、結膜、体幹、四肢、手、指などに認められます.粘膜病変からのほうが、皮膚病変より出血しやすいとされています.反復する鼻出血nose bleeingが良く認められます.その程度は、軽症から、輸血が必要なまでのものもあります.消化管・呼吸器・尿路からの出血も起こることがあります.消化管出血の原因になる血管病変は、バリウム検査では、突出や陥没した病変がないため、検出困難であり、内視鏡をしなければ発見できません.

動静脈瘻(ろう)(arteriovenous fistula)とは、動脈と静脈が直接、短絡している状態で、その移行部の静脈が大きく拡張している場合もあります(静脈瘤 varixといいます).肺の動静脈瘻があれば、酸素化が悪いために、全身倦怠・呼吸不全・チアノーゼ、さらに喀血などを起こすことがあります.また、肝臓や中枢神経系(脳・脊髄)でも同様に動静脈瘻が認められることがあります.動静脈瘻が大きいと心不全を起こす場合もあります(特に、肝臓に動静脈瘻がある場合).HHTの患者さんの50%に、肺、脳、肝臓の少なくとも一つに病変があるとされています.

脳症状には、脳出血と脳梗塞があり、前者は脳動静脈瘻arteriovenous fistula (AVF)・脳動静脈奇形 arteriovenous malformation (AVM)や動脈瘤が原因で起こり、後者は肺の動静脈瘻からの塞栓症のために起こるのが原因です.また、脳膿瘍 brain abscess(脳に膿が溜まる病気です)も後者で起こることがあります.脳の血管奇形は、HHTの患者さんの10-20%に認められ、動脈と静脈が直接つながる動静脈瘻 (AVF)の形をとったり、ナイダス nidusと呼ばれる異常血管構造が介在する場合があります.後者の場合、大きさにより1 cm以下であればマイクロ血管奇形 micro-AVMと呼ぶ場合があり、1cm以上の大きさの病変と区別されます.大きさが、1cm以下であれば出血する可能性は高くないこと、またMR検査で検出できいない場合もあります.逆に1cm以上の病変 (nidus type AVM)は、出血する可能性が高く、MR検査で必ず検出可能です.小さな病変は、出血しにくいため治療の対象とはせずに、経過観察されることが多いです.脳の動静脈瘻・動静脈奇形は、多発性の場合もあります.肺の病変と同じように、ある時点で脳病変がなければ、新たにできることはないと考えられています.またHHTの患者さんには、頭痛が多いとされています.脳の動静脈瘻・動静脈奇形の治療は、簡単ではありません.脳神経外科の中でも治療の難しい病気とされています.治療方法は、外科的摘出術、血管内治療、定位放射線治療があります.定位放射線治療は、病変に高線量の放射線を照射する治療で、ガンマナイフやリニアックナイフ、サイバーナイフなどと呼ばれる方法があります.HHTの患者さんの場合、多発例も多く、この場合すべて外科的にとることは非現実的ですし、1cm以下のmicro AVMの場合は、出血率が低いと考えられており、注意深い経過観察がされることが多いです.脳梗塞の原因が肺の動静脈瘻であるにも関わらず、そのような診断されずに、一般的な脳梗塞予防の薬である抗血小板薬や抗凝固薬が、投与されると消化管出血を悪化させる場合があり、重篤な貧血になる場合もあります.

皮膚病変は、レーザー治療などが行われることがあります.鼻出血で出血が止まらない場合には、血管内治療として塞栓術を行う場合がありますが、粘膜病変が消えるわけではないので、その効果は一過性です.どうしても治療に抵抗する鼻出血に対しては、形成外科医により、粘膜病変を切除し、植皮を行うことがあります.

肺の動静脈瘻は、HHTの患者さんの約30%に認められ、逆に肺の動静脈瘻があれば、その90%が、HHTと考えられています(論文によってそのデータはまちまちですが).つまり肺の動静脈瘻があれば、HHTの可能性が非常に高いということになります.血管構造が単純なsimple type (80%)と複雑なcomplex type (20%)に分ける場合があります.肺の下葉に病変があることが多いです.病変を栄養する動脈の栄養血管の太さが、3mm以上あると治療の適応があるとされています.つまり大きなシャントがあると、そこを血栓や細菌が通り抜けやすいため閉塞した方が良いとされています.(理論的には、3mmよりも小さな栄養血管の場合も、血栓や細菌が通過することがあると思いますが).以前は外科的治療も行われていましたが、現在は血管内治療(外科的治療とことなり、カテーテルを用いた非侵襲的な治療)が行われています.これは、シャント部位、またはその手前の動脈を、プラチナ製のコイルで閉塞します.胸を開ける外科的治療を必要とせず、局所麻酔で治療可能です.また場合によっては(再発などがあれば)再治療の可能です.栄養血管の太さが10mm以上ある大きな動静脈瘻の場合には、コイルの逸脱(シャント部位を抜けて肺静脈側、ひいては体循環の動脈側に移動してしまいます)などの合併症の可能性が高くなるため、外科的治療が選択されることもあり、最近は内視鏡下で低侵襲手術が行われます.肺の動静脈瘻があれば、歯の治療(抜歯など)、外傷や他の外科的治療を行なう場合、抗生物質の投与を必要とします.また、この病気のある患者さんに点滴を行うときには、空気が入らないように細心の注意が必要です.空気が、脳に飛んでいけば空気塞栓症を起こす可能性があります.

HHTは、家族性に発症するため家族のメンバーの一人が診断されると、文字どおり芋づる式に家族内に病変をもつ患者さんが診断されます.HHTの10%の患者さんが、動静脈瘻・奇形のために、脳出血・脳梗塞や脳膿瘍を起こし、若年で死亡したり、大きな障害を持つことになります.この人たちは症状を出す前に、診断されると、病変によっては予防的治療が可能になります.そのようなスクリーニングの診断をする・しないは、個人が決めれば言い訳ですが(最終的に決めるのは医師ではなく、患者さん自身です)、予防可能な病変の検出が可能であることを、医師はきちんと説明するべきであり、説明を受けた患者さんは、親族にそのような可能性を知らせてあげるべきであると思います.

私の患者さんの一人とのお話しの中で、HHTは必ず遺伝する病気で、「孫子に申し訳ない」と落ち込んでおられた方がおられました.確かに優性遺伝するため御家族に同じ病気が発症する可能性は高いのですが、「そう考えるよりも、発病する前に診断して、予防できる病変に対しては治療が可能な病気です.前向きに考えましょう」と、その患者さんとは、お話をしました.

スクリーニングの診断:肺の動静脈瘻の検査は、超音波検査でシャントの存在を確認したり、CT検査で直接病変の検出を行います.この際、造影剤は不要です.脳や脊髄の検査は、MR検査を行います.肝心なことは、この病気のことのわかった医師(この病気の名前は知っていても、実際、わかっていない医師が大半です)に診てもらうことでしょう.

肺の病変(呼吸器内科・呼吸器外科・放射線科)、脳・脊髄の病変(脳神経外科)、鼻出血(耳鼻咽喉科)、消化管出血(消化器内科)、皮膚病変(皮膚科・形成外科)、遺伝性疾患(遺伝のカウンセリングのできる科)などと多くの科が関与しますが、全体をまとめる医師が必要で、まさにチームプレイが必要ということになります.患者さんは、「しんどいから」内科を訪ね、子供が半身麻痺になり小児科を訪ね、鼻血が出るから耳鼻科を訪ねます.この病気を知らないと氷山の一角だけを見て、全体像がわからないまま、ただ時間だけが経ち、次に大きな症状が出て初めて診断されるようなことになります.日本にも欧米のようなしっかりした医師・患者のタイアップした患者団体・家族会のようなものができればいいと思います.

2004.3.14記、2005.7.19追記