No. 42

録画された災いの本質
クローバーフィールド/HAKAISHA
〈原題:CLOVERFIELD〉





DVD「クローバーフィールド/HAKAISHA」
(スペシャル・コレクターズ・エディション)/
2008年米国製作(パラマウント映画)/発売元:
パラマウント ジャパン/発売日:2008年9月5日/
85分(本編)ほか映像特典付き/価格4,179円(税込)
Copyright (C) 2008 by PARAMOUNT PICTURES.
All Rights Reserved. TM, (R) & Copyright (C)
2008 by
Paramount Pictures. All Rights Reserved.

 全編ビデオテープに録画されたシーンで展開する2008年米国(パラマウント映画)製作の実験的パニック映画。映画の宣伝コピーには、「全く新しいアトラクションタイプの映画。臨場感あふれる映像が車酔いに似た症状を引き起こす可能性があるので、くれぐれもご注意」とある。プロデューサーはTVの大人気シリーズ「LOST」で知られるJ・J・エイブラムス。
  2007年7月2日、全米の映画館で一斉に、タイトルなし、予告なしの映像が突如として上映された。その内容は、ニューヨークの街が正体不明の巨大な“なにか”に襲われるシーンであり、首のない自由の女神のポスターだった。映画の内容は極秘とされ、ネットを中心にさまざまな憶測が飛び交ったという。そして同年11月に初めて“クローバーフィールド”(CLOVERFIELD)というタイトルが発表された。明けて08年1月18日全米公開、オープニング3日間の興行収入は4000万ドルを記録、1月公開作品として歴代No.1となった。

 こう紹介すると、米国らしい凝った映画マーケティング手法の成功例として話は終わるかもしれないが、映画そのものもまた変わっている。登場人物が撮影するビデオテープで全編を構成、上映時間85分はそのテープの録画時間だ。
  以下、ネタバレ覚悟で読んでいただくか、映画を見終わってから読んでいただくか、おまかせするが……パニック映画にしては、登場する“なにか”は最後までわからない。いや、おおかたの想像はつくが、“なにか”はキングコングでもゴジラでも地球外生物でもなんでもいいじゃないかといったふうだ。
  要はこの映画は、“なにか”に突然襲われるニューヨーカーたちの“災(わざわ)いの記録”だということだ。

 実験的手法や結末などについて評価が分かれるかもしれないが、映画自体はおもしろい。マンハッタンに土地勘をお持ちの方は、“なにか”に追われて行く先々の場所、ルートがわかりやすく、観光的な楽しみ方もできる。しかし、“なにか”がなんであろうとも、キングコングやゴジラに類する怪物なのであれば、その手のパニック映画であり、このコラムで取り上げることに異論を唱える読者もいるだろう。しかしなぜ、あえて取り上げるのか。
  それは、この“なにか”こそ、「災(わざわ)い」の象徴と解釈できるからだ。映画のなかでは、パーティの最中に、けた違いの“なにか”が突然、大地を揺るがしビルを破壊する。まずは、大地震を思わせる「不意打ち」である。そしてパーティ会場のアパートメントの前の道に、轟音とともに自由の女神の首が落ちてくる。人間の理解を超えた「不条理」である。さらに“なにか”は逃げまどう人びとを追う。「悪夢」である。“なにか”が怪物らしいことはかいま見られるが、なんであるかは知らされないまま、ビデオの撮影者たち(主役の友人が撮影者)は、問う意味すら見い出せず、危機状況のなかで追われるのみ。「情報の欠如」だ。
  政府は、“なにか”がもたらす災禍への緊急対策として軍隊を出動させ、マンハッタン島封鎖のみならず、“なにか”もろともマンハッタンを爆破・焦土化しようとする……このあたりはカテゴリーA病原体による大規模バイオテロへの強硬対抗策を思わせる。

 このように、『クローバーフィールド』の真の主役“なにか”は、災いそのものであり(クローバーは“幸せ”の象徴のはずだが)、ビデオを撮り続ける人間は、災いを記録し続ける。その臨場感がもたらすものは、“車酔いに似た症状”というよりは、災害のまっただ中の人間存在の浮遊感とでも言うべきだろう。そう、竜巻に巻き込まれ、この身が天空に舞う感覚に近いものかもしれない。まったく、災いを疑似体験した思いだ!(とは言え、映画は楽しめた)
  ちなみに、映画ではセントラルパークが重要なプロットの構成要素になっているが、映画タイトル『クローバーフィールド』はこの公園の(ジョン・レノンにちなんだ)“ストロベリーフィールド”に引っかけたものと思われる。

 〈2008.11.12〉