No. 41

テムズ川の氾濫で再びロンドン水没
デイ・アフター 首都水没(完全版)
〈原題:FLOOD〉





2006年英国・カナダ・南アフリカ製作、
DVD「デイ・アフター 首都水没(完全版)」
/発売・販売元:アミューズソフトエンタテインメント株式
会社/発売日:2008年10月24日/約113分/価格
3,980円 (税込)
(C)2006 The Flood Productions Limited/
Moonlighting Flood Productions(PTY)LTD/
London Flood Productions (Muse)Inc.
All rights reserved.

 前回の『ディザスター&イマジネーション』で、DVD災害映画シリーズ『パーフェクト・ディザスター』(2006年米国・英国、ディスカバリーチャンネル製作)から「メガフラッド:ロンドン水没」を紹介した。今回もテーマは同じ、テムズ川の氾濫によるロンドン受難の映画、2006年英国・カナダ・南アフリカ制作「デイ・アフター 首都水没(完全版)」〈原題=FLOOD〉を取り上げる。
  「デイ・アフター/首都水没」は先ごろ(9月14日)、初の地上波テレビ放映というキャッチフレーズでテレビ朝日「日曜映画劇場」で放送されたのでご覧になった方も多いだろう。そのDVDのほうは、今月(10月24日)にリリースされる(別項DVD説明参照)。

 
「美しいロンドンの街並み、そしてテムズ川は河口に設けられた巨大な構造のテムズ・バリア(水門、前回写真入りで紹介)に守られ平穏そのものだった。しかしその頃スコットランドではハリケーン並みの大嵐が海岸地帯を襲っていた……(中略)……大嵐がスコットランドから北海岸地帯、そしてロンドンへ近づいてきた……」。映画紹介の宣伝コピーにあるこの映画のプロット展開は、まさに前回の「ロンドン水没」と同様の気象条件である。
  ロンドン洪水は、低気圧(嵐)によって引き起こされた海面上昇(高潮)がドーバー海峡にぶつかり、高潮の侵入を導くようにテムズ川河口があることで過去繰り返されてきた。テムズ・バリアはその対策として設けられた水門だが、地球温暖化を背景にその洪水対策上の限界が現実の課題ともなっているそうだ。

 
「デイ・アフター/首都水没」のなかでは、当初は最悪の予測を排斥していた気象庁幹部が、それが現実化しつつある状況のなかで、「ふつうならそうはならないないだろう」と過去の事例を踏まえた”経験則”に頼ろうとする。しかし異端の気象学者がそれをたしなめ、「これはふつうじゃない」とひと言で一蹴する。自然災害とは、”ふつうではない”状況、想定外の事象に対応できないことから発生するという災害の本質が、この簡単なやりとりに集約されている。

 
この映画で注目されるのは、政府内に設けられた緊急災害対策本部での危機管理手法だ。警報発令、避難勧告、避難命令がいずれも後手に回り、ロンドン市民に被害が出始め、さらに数十万にのぼる命の危険が想定されるなかで、”見捨てる地域と救う地域”の重大な選別が、救助方針の課題として浮上する。とくに公助(公権力行使)が伴う危機管理では、その実効性を高めるために、救助に要する軍隊・消防・警察などの実働勢力を一地域に集中させるために、救助対象地域を選別することが起こり得るのだ。それは言葉を代えれば、命の重さを地域ごと(集団)に選別することである。
  映画では、緊急避難の余裕もなくなったロンドン市民の救助対策に行き詰まった政府危機管理監が、学校施設のある地域に取り残された人びとを優先的に救助するという苦渋の決断を迫られる。

 
ここで思い起こされるのは、先ごろの米国でのハリケーン・グスタフ避難対策だ。グスタフは8月末発生し、カテゴリー4にまで発達、カリブ海諸国、米国南部に大きな被害をもたらした。当時、グスタフ進路に当たったルイジアナ州と、その最大の都市ニューオリンズ市は、大災害となった先のハリケーン・カトリーナ(2005年8月)の教訓を活かそうと、徹底的な避難対策を施した。
  その例を挙げると――「避難命令に従わず残留する者には救助等の行政対応をしない」、「治安改善のための外出・立ち入り禁止令」、「ペット避難計画の策定」(ペットを理由に避難しなかった者が多かった)」などだ。カトリーナのとき、避難率98%と”完全避難”を達成した同州プラークマインズ郡では、グスタフのときも「報道発表」で、外出禁止令に違反した者は「容赦なく逮捕、刑務所に送る」、「郡内には避難所がない(完全に安全な場所へ避難すべし)」、避難後は「道路封鎖の実施(戻れない)」などと告知した。

 
台風やハリケーンなどで想定される洪水では、地震と異なり、多少は避難の時間的猶予がある。洪水は、水が来ないところへ避難すれば犠牲者は限りなくゼロに近づく。「災害時の犠牲者ゼロをめざす」という先の内閣の防災方針が新内閣でも引き継がれるかどうかはともかく、洪水での究極の減災対策が”完全避難”であることは言を待たない。