No. 20

北斎も描いた?……ローグ・ウェーブ

ポセイドン
Poseidon



葛飾北斎の『富獄三十六景・神奈川沖浪裏』


「ポセイドン」DVD発売元:ワーナー・ホーム・ビデオ

 葛飾北斎の『富獄三十六景・神奈川沖浪裏』(写真)は海外でも有名だが、海外ではこの高波を“ツナミ”と表現するらしい。 もちろんこれは津波ではなく、“沖波”と称される高波である。

  この絵のなかで波にもまれる3隻の細長い船は当時の高速輸送船で押送船(おしょくりぶね)という。押送船の全長は約12m、絵から推測すればこの沖波の波高はおよそ15m。
  さて、この沖波は北斎の創作上の産物なのだろうか。

 ここに一つの仮説がある。北斎が描いたこの沖波は実は、《フリーク・ウェーブFreak Wave(気まぐれ波)》あるいは《ローグ・ウェーブRogue Wave(はぐれ波)》と欧米で呼ぶ、突然発生する海象としての大波だというのだ。

 白波をハイスピードカメラで撮ると、先端部はこの絵のようになり北斎の写実の眼の確かさが絶賛されるが、北斎の沖波の性質を科学的に解釈しようとした試みはあったのだろうか。

  東京大学大学院工学系研究科の早稲田卓爾助教授は、仮説立証の可能性を示唆している(海洋政策研究財団広報誌『OPRF』第112号)。

  今日の海洋工学の最先端知見は、突発的巨大波浪という海洋防災の新たな課題の科学的解析を進めている。巨大波浪が原因と思われる大型貨物船の沈没事故は、国際的に過去40年ほどで数十件、死者は500人を超えるとされ、地球温暖化もあって増加傾向も危惧されているのだ。

 さて、今年(06年)製作・公開の米国映画「ポセイドン」は、72年製作の名作「ポセイドン・アドベンチャー」のリメイクだ。この映画のなかで豪華客船『ポセイドン号』を転覆させる大波がまさしく「ローグ・ウェーブ」。

  物語は急テンポで次から次へと“息を継ぐヒマもなく”、“潜ったまま”で展開する。映画が終わったあなたは、まるで酸素欠乏の金魚がやっと水面に顔を出せたみたいに「プファア〜!」と息を継ぎ、『神奈川沖浪裏』の押送船に助けられる。

  しかし、その船は再び北斎の沖波に呑み込まれて……「ポセイドン」の続編展開はこうだったりして(?!)。