No. 19

大海に放り出されたいのち

キャスト・アウェイ
Cast Away



「Cast Away」〈20th Century Fox〉(写真:actuacine.netより)

  「FedEx」(フェデックス)は日本でもお馴染みの国際貨物運送会社だが、本籍は米国籍で、Federal Expressがその名のもとである。

 米国の映画には、実際にある企業やテレビ局が実名(ニュースキャスターも実物)でどんどん出てきて、日本映画などでよく見る但し書き「この物語に登場する団体は架空のもので……云々」はどこ吹く風、というのがおもしろい。

 さて、この映画の主役はトム・ハンクスとFedEx ……正確には、本編約144分という長編映画の7割がたが FedEx社員に扮するトム・ハンクスの一人舞台だ。
  映画タイトル “キャスト・アウェイ”(放り出されるといった意味)は、孤島サバイバルがモチーフだからぴったりだが、もっと奥深い意味でこのタイトルはふさわしい。

 飛行機事故で無人島に漂着し、孤立無援のまま、飲み水や火に始まり自作・調達し自活し始める姿を、人類の文明発展史を凝縮させたように“時間を止めて”じっくり見せる。
  その意味でこの映画は “孤島サバイバル”がテーマなのだが、その奥深さはもっと別なところにあった。終盤に至って、災害や事故との遭遇体験とその後の人生の“ありよう”を、じわっと考えさせてくれるのだ。

 ラストシーンでトム・ハンクスが見つめる米国西部の大地は、再起へ向けた無限の可能性を象徴するかのように見える。しかし次の瞬間、ふいに筆者は(トム・ハンクスも?)、その大地が大波にうねる錯覚を味わったのである。それはまさに彼が、九死に一生を得て乗り越えてきたはずの大海原のうねりだった。

 事故に遭遇するまでの彼は、モーレツに働くために生きた。孤島の4年間は生き残るために生きた。そして生還した後の彼は、生きる目的を捜すために生きるのだ。

 特異・希有な災害経験から再起へ向けての生き様は、体験者でなければ想像しがたい。ただ、その人間の生き様は、生きる目的捜しという希望の灯を消さないかぎり、被災前、あるいはサバイバルよりもはるかに有為なものになりうるのではないか。

 トム・ハンクスはこの映画の撮影中、役づくりのために目に見えるほどにも体重を落としている。彼はそうすることによって、災害・事故とサバイバル、そして再起の間の振幅を疑似体験したのだろう。たいした俳優である。