ダイアモックスってなに? Q and A  
日本登山医学会:情報ページトップに戻る

Q1 高山病の万能薬ですよね?
A.  いえいえとんでもない。ダイアモックスが有効なのは、ほんの軽い急性高山病の初期だけです。肺水腫や脳浮腫などには荷が重すぎます。

Q2 利尿剤だから効くのですよね?
A.  いやいやいえいえ。急性高山病で手足や顔がむくむことはよくあります。でもこの場合だって血管の中の水分量は減っている。水も飲めず飲んだって下痢気味なことも多い。おしっこが何時間も出なかったりもします。つまり急性高山病では血管内は脱水状態に近い。こんな場合に利尿剤を使うなどとんでもない。ダイアモックスは腎臓の細胞に働いて水を尿中に出す作用、利尿作用も少しはあります。が、これは副作用みたいなものです。

Q3 じゃあなんで効くの?
A.  空気の薄いところに上がったからには呼吸をがんばって空気(酸素)を沢山取り入れたいところです。けれど実際には、呼吸の中枢(延髄にあります)が答えてくれずさぼっている場合が多い(馴化がうまくいかない)。ここぞダイアモックスの出番です。呼吸中枢に刺激を送るのはそのすぐ近くにある炭酸ガスセンサーです。ですから炭酸ガスを適切に吸入するのが実はもっともよい急性高山病の治療法になります(ただ、適切に、というのが難しい)。ダイアモックスは二酸化炭素を吸入したと同じ効果を延髄の二酸化炭素センサーに及ぼします。そして知らず知らずのうちに呼吸を刺激するのです。

Q4 高く登る場合は誰でものんだほうがいい?
A.  呼吸中枢がきちんと高度と薄い空気に反応しているひとにとっては必要ありません。なんにも症状がないのに服用するのは有害無益です。

Q5 予防にも効果的とききますが?
A.  ヘリ救急隊員のようにやむを得ず急速に高度を稼ぐ必要のある場合などはダイアモックスを服用することが勧められます。通常のペースで歩いて登る場合にはほとんどの方にその必要はありません。ただ中には高く登ると調子が悪くなることを何度も経験する方がいます。その際には高度を上げる日の朝から服用するよう勧められます。

Q6 ダイアモックスを飲むのはドーピングと同じではないか
A.  多くの方は競技スポーツのために登っているわけではありませんから、ドーピングの定義の範疇から外れます。ただもし山岳競技会に出場する選手がいてダイアモックス服用の可否を問われたら私ならやめさせます。ドーピング違反を心配するからではなく、ダイアモックス自体が運動能力を低下させる可能性があるからです。

Q7 ダイアモックスはよく効きますが、指がちりちりしたりします。平気ですか。
A.  ダイアモックスも薬です。おしっこが近くなるのと同じようにこれらの感覚異常は副作用というべきもので、薬が効いている証拠です。大丈夫。

Q8 どういうのみ方がいいのですか。
A.  予防使用する場合は、高度を上げる日の朝から。そうでない場合は、目的地の高度に着いて急性高山病の症状がでそうだなあと感じてから。125mgか250mgを朝と夕に。体重で大まかにどちらかに決めます。ただ効き方に個人差がありますので、指のチリチリ感を目安にするのもひとつの方法です。

Q9いつのむのを止めるの?
A.  目標高度到着2日間を目安に。これでも駄目なら一旦後退を考えましょう。

Q10 ダイアモックスって、じゃあ、たいした薬じゃないんですね。
A.  そう、そのとおりです。ダイアモックスを一番沢山使っているのは、緑内障の患者さんです。これらの方は、一日1000mgくらいを服用するのが当たり前です。
 で、小水が出すぎて体がからからになるか? いいえ。
 指がチリチリして耐えられなくなるか? いいえ。
 高い山でスーパーマンになるか? まったく、いいえ、です。
 でも、この薬のおかげで急性高山病の苦しい初期症状を免れている方が何万人もいるのは確実です。

A. 最後に少し丁寧なanswer。なぜダイアモックスは効果があるか。

 高所ではまず動脈の酸素レベルが下がるので、低酸素センサー(末梢の化学受容器)が働いて呼吸が刺激される。当然二酸化炭素が肺から放出されPaCO2が低下しpHがアルカリ性に変わる。普通はこれで呼吸の刺激はなくなる。しかし、高いところでこのままでは困るはずだ。
 呼吸における高度馴化とはなにか。それはつまり、PaCO2が低下しpHがアルカリ性に変っても持続的に呼吸が刺激されるように炭酸ガスに対する呼吸の感受性が亢進するかあるいはPaCO2閾値が下方にリセットされることである(呼吸の馴化についての詳しい説明は、「高所と換気応答」を参照)。
 このPaCO2に対する感受性に変化が見られず呼吸中枢への刺激が足りない時にはどうしたらよいか。

   PaCO2や[H+]の増加に反応するメインのセンサー(これを中枢の化学受容器という)は延髄の腹側の表面近く、第四脳室にすぐ接する場所にあるといわれている。呼吸中枢といわれる延髄の中枢のすぐ近くである。
BBBs.jpg(89013 byte)

 大切なことは、このセンサーは脳の内部にあるのではないこと、つまりこのセンサーを刺激する因子は脳脊髄液になければいけないことである。ここで問題になるのが、血液脳関門である。図に示すように、[H+]も[HCO3-]もこの関門を通過できず血液から脳脊髄液にほとんど移行できない。

   血液中のCO2だけが脳血管関門を通過し脳脊髄液にとけ込み脳脊髄液の水素[H+]イオン濃度を高めpHを低下させ中枢の化学受容器を刺激する。
 CO2の解離を表す次の式を参照のこと。



CO2 + H2O <--> H2CO3 <--> H+ + HCO3-     式1
[H+] = 24*PaCO2/[HCO3-]                式2

  さて、上の式をもう一度みてみよう。
 呼吸を刺激するには中枢のセンサー近くのCO2か[H+]イオンを増やしてやればよい。[H+]は脳血管関門を通れないが、式2をみればCO2を与えてやればよいことがわかる。つまり炭酸ガスを吸えばよいのだ。

   炭酸ガスがないときはどうするか。式1をみよう。この一連の反応を律する(右側に進める)酵素を炭酸脱水素酵素という。赤血球にあるこの酵素のおかげで血液はCO2をHCO3-の形で効率よく運んでいる。

   さて、この酵素をブロックしてやればCO2を与えなくとも反応が右側に流れない分CO2が血液中や細胞に溜まってくるはずだ。脳細胞や赤血球でこの反応が起きればCO2は脳脊髄液へと拡散し脳脊髄液の[H+]を上昇させ換気を刺激することになる。
 このブロッカーこそ、ダイアモックスなのである。中枢の化学受容器周囲の[H+]を上昇させる、というこの作用こそダイアモックスの第一義的作用である。

   この炭酸脱水素酵素阻害剤’ダイアモックス)は腎臓の尿細管では[HCO3-]の再吸収を阻害するので(同時に水の再吸収も妨げるので利尿効果も持つ)血漿[HCO3-]は低下し、式2を見れば[H+]が増え代謝性アシドーシスがもたらされる。これもまた(限定的ではあるが)換気を刺激することになろう。これも副次的な呼吸刺激作用である。

   
(c) 2005 All rights reserved by JSMM.